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震災発生後のいま、伝えたいことその1〜島田雅彦さん(作家)

作家の島田雅彦さんにお話をうかがいます。島田さんは作家としての活動をしながら、東日本大震災の書籍による復興を目的とした「復興書店」をたちあげ、文化・教育方面の復興支援に少しでも役立たせてもらえれば、という思いで支援活動をされています。そんな島田さんに「震災発生後のいま、伝えたいこと」についてお話を聞きました。

震災発生後のいま、伝えたいこと その1 祈り

東日本大震災があり、あらゆる人々が東北に向けて祈っています。祈りというのは、形はないけれど、非常に重要なものだと思います。祈りというのは精神的な支援、心の支援というものにつながるのですが、祈りをより多くの人から集めると力になると昔から信じられています。助けたいという思いはだれもが共通してもっていて、これは自然状態のなかでも、人間の意識のなかでもおのずとたちあがってくるものなんですね。自分が得をしなくても人は祈る。そういう思いは本能に根ざしているのです。

震災のこともあってあらゆる人々が祈っている。日本だけではなく世界で、宗教的な背景はいろいろだと思いますが、東北方面に向けて祈っています。祈りというのはある形式、儀式を通じて行ったり、思いを念じるということなんですね。義援金とか支援金とかお金の場合は形があるし、水とか燃料とか救援物資というのはすぐに被災地に必要なものです。それに対して祈りというのは、形はないけれど、非常に重要なものだと思います。日本には大仏とかお寺とか公共の建物があり、それはたいてい国家安寧とかあるいは地震とか天災があったとき、それをなんとか収束させたいというような祈りが集まってできた場所です。そういうパブリックなものをつくるときに募金を集めますが、募金を集めると同時に、より多くの人の祈りも集めるんですね。祈りというのは精神的な支援、心の支援ということにつながります。祈りをより多くの人から集めると力になると昔から信じられているわけです。

たとえばわかりやすい例でいうと、サッカーの試合はホームが圧倒的に有利だといわれています。その応援を通じての勝利への祈りというのが相手チームよりも多いんですね。それでサポーターは12人目の選手だとよくいいますけれども、実際に応援による後押し、勝利への祈りによる後押しというのは相当の効果があるらしく、選手がみんな口を揃えてそのことを言いますね。それだけ多くの祈りを集めるということがかなりの力になってくるということなんですね。千人針とか千羽鶴とかは戦争のときにとくに集められていました。祈りはかたちがないので、ある程度なんらかの形に、針や折り鶴とか目に見える形にしているんだと思いますけどね。

結局、なにか助けたいという思いはだれもが共通して持っていて、これは自然状態のなかでも、人間の意識のなかでもたちあがってくるものなんですね。資本主義というのはしばしば功利優先というか、自分が得をすればいいとか、自分たちが生きている間に得すればいいとか、効率優先で考えてしまいますけれども本当は自分の死後とか、自分の関われない世界もよかれと思う。善の気持ちは人間の本能に宿っているんです。だからしばしば人は自分が必ずしも得をしなくても、自分が生きている間に実現しなくても、自分がいなくなったあとの世界のためにも祈るんですね。そういう思いというのは実は本能に根ざしている。人は自分では何もできないと思いながらも、祈ることをやめられないのです。(談)

 

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島田雅彦さん
Masahiko Shimada
作家。1961年東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。在学中の1983年『優しいサヨクのための嬉遊曲』で小説家デビュー。主な作品に『彼岸先生』(泉鏡花文学賞)、『僕は模造人間』、『自由死刑』、『退廃姉妹』(伊藤整文学賞)などがある。オペラ台本にはオペラ『忠臣蔵』、『Jr.バタフライ』がある。文芸家協会理事。法政大学国際文化学部教授。東日本大震災の復興支援として、「復興書店」をたちあげる。

復興書店
「優先順位からすると本とか言葉はあとからついてくるもので、だからこそこの支援活動は急を要するわけではないけれども、息が長くなければいけないという性質のものです。また、心のダメージというのは、おいしいものを食べたから治るわけじゃないし、薬で治せるわけじゃないし、長くかかると思うんですよね。だからゆっくり効く言葉の薬を処方し続ける感じでやりたいと思います」
http://www.fukkoshoten.com

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