時事 International Affairs

震災発生後のいま、伝えたいことその4〜島田雅彦さん(作家)

作家の島田雅彦さんに「震災発生後のいま、伝えたいこと」についてお話をうかがいます。
今回は「共生」についてです。


震災発生後のいま、伝えたいこと その4 共生

仮に時の政府の対応がまずくても、日本が捨てたものではないのが、一般の人たちに助け合いの精神があるということです。資本主義の原理が浸透している現代の日本であってさえも、依然、かつての古き良き互助社会、共同社会、その名残がしっかりとどまっています。だからみな節電に積極的だし、買いだめを控えようと呼びかけるし、意味のない自粛はやめてもう少し経済活動、生産活動をやって被災地を盛り上げようとか、そういう共に生きるということ、共生に向けての努力というのをやっていけるわけです。

いま政府の対応とか東京電力の説明責任とかに批判の声が高まっているところではあります。しかし、それでもなおかつ日本が捨てたものではないのが、そういう政府や電力関係ではない一般の人たちに、助け合いの精神があるということですね。日本という国は断層にそって国があるというか、あらゆる天災におそわれる危険の高い国なんですよね。毎年夏になれば台風の被害があり、地震のおそれはあり、津波も全方位的に襲ってくる可能性がある。非常に自然災害の多いところなんだけれども、それはいまに始まったことではないので。もう何百年、何千年も前に日本列島はあるのだから、そういう災害にはある程度慣れているんですね。マグニチュード9の今回の規模の地震がほかの国にきた場合は、もっと多くの被害者がでていた可能性が高い。

それはまずひとつには自然災害に対する対応の仕方が、ある程度個々人のなかにもできあがっている。同時に助け合うということに向けての動き、これがよくできている。もちろん火事場泥棒みたいな人もいなかったわけではない。だけどほかのアメリカとか中国の人が、略奪がないということが奇跡だというわけだけれど、私たち日本人は、それは奇跡だとは思わないでしょうね。やはり助け合うのが基本であると思っている。資本主義の原理が浸透している現代の日本であってさえも、依然、かつての古き良き互助社会、共同社会、その名残がしっかりとどまっている。だからみな節電に積極的だし、買いだめを控えようと呼びかけるし、意味のない自粛はやめてもう少し経済活動、生産活動をやって被災地を盛り上げようとかね、そういう共に生きるということ、共生に向けての努力というのはやっていけるわけです。それがあるから、仮に時の政府が、対応がまずくても何とかなる。

歴史的に共生の知恵というのは裏付けられるんですよ。これはある人類学者が言ったことですが、日本人のDNAを調べると、他の土地に比べるとかなり多様性に富んでいるらしいんですね。例えば中国とかインドというのはすごく少数民族を含めて多民族の土地なんだけれども、そういう土地よりも日本のほうが、DNA多様性が豊かだというんですね。すでに過去においてほかの土地では絶滅してしまったような古いタイプのDNAが日本人のなかに確認されると。これはどういうことなのか。たとえば、中国とかインドのような大陸の国というのは、歴史上戦争も多かった。非常に熾烈な生存競争があって、ときには一つの部族とか民族が消されてしまうような激しい対立があった。背景には政治抗争とか宗教戦争というものもあったかもしれない。実際中国は儒教のふるさとなのに、孔子の末裔が抹殺されたり、仏教のふるさとインドで仏教が弾圧されたりということがあったわけだけれども、そうやって長いインドや中国の歴史のなかでは、戦争状態がいくつもあって、その過程で自分たちのDNAすら残せなかった人もいる。

一方日本は、長い歴史のなかで、内乱状態、戦争状態だったこともあるけれど、それはその歴史のなかからみるとごく短い期間だったんですね。長い期間においては比較的平和で安定した状態だった。だからそこで民族浄化みたいな残酷な事態にはいたらなかった。基本的によそから逃げてきた人、彼らが安心して暮らせる土地だったんでしょうね。だからそのDNAの多様性が担保されてきたのだという、そういう考え方があります。日本は基本的に災害の多い土地で、大陸を中心にみるといちばん東のはずれなんですね。大陸から逃れてきたような人々が最後に避難所としてたどり着いた。そこで差別もされずに共生をしてきた。それが日本の長い歴史なのだという思いもあって。それゆえ独自の、色紙に「和」と書く、大和は大きい和なわけですけれど。まあそういう自然にできあがったナショナルアイデンティティというのがあるんじゃないかと思うんですね。(談)

 

丸の内サロンはインターFMで月曜から金曜日までお昼の12:10〜12:30放送中です。

 

島田雅彦さん
Masahiko Shimada
作家。1961年東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。在学中の1983年『優しいサヨクのための嬉遊曲』で小説家デビュー。主な作品に『彼岸先生』(泉鏡花文学賞)、『僕は模造人間』、『自由死刑』、『退廃姉妹』(伊藤整文学賞)などがある。オペラ台本にはオペラ『忠臣蔵』、『Jr.バタフライ』がある。文芸家協会理事。法政大学国際文化学部教授。東日本大震災の復興支援として、「復興書店」をたちあげる。

復興書店
「優先順位からすると本とか言葉はあとからついてくるもので、だからこそこの支援活動は急を要するわけではないけれども、息が長くなければいけないという性質のものです。また、心のダメージというのは、おいしいものを食べたから治るわけじゃないし、薬で治せるわけじゃないし、長くかかると思うんですよね。だからゆっくり効く言葉の薬を処方し続ける感じでやりたいと思います」
http://www.fukkoshoten.com

ホーム > 島田雅彦 | 時事 > 震災発生後のいま、伝えたいことその4〜島田雅彦さん(作家)

丸の内サロンからのお知らせ

ページの上部に戻る