時事 International Affairs

震災発生後のいま、伝えたいことその5〜島田雅彦さん(作家)

作家の島田雅彦さんに「震災発生後のいま、伝えたいこと」についてお話をうかがいます。
今回は「贈与」についてです。


震災発生後のいま、伝えたいこと その5 贈与

共生の知恵、歴史というのは、基本的には相手に振る舞うということ、相手に無償の贈与をするということにつながっています。これも独り占めしないという一種の本能です。こういう贈与というひとつの本能にねざした分け合いの精神というものがなければ、もっとこの国は住み心地の悪い、人の弱みにつけこんだ略奪とかがおきるようなそういう土地になっていたでしょう。でもそういう土地になっていないのは、基本的に贈与ということをみんなが行ってきたからだという気がしますね。

共生の知恵、歴史というのは基本的には相手に振る舞うということ、相手に無償の贈与をするということにつながります。自分がもっているもので余分なもの、余ったものは与える。あるいは自分の徳というものをしっかりと相手に見せるということ、徳を発揮するということ、それがひいては人々の尊敬を集めることにもつながったはずだから、そこで贈与をするのです。これも独り占めしないという一種の本能です。

だから、いくら昨今資本の原理が浸透して日本の国内のなかでも貧富の差が大きくなってきたとはいうものの、その貧富の差はインドとか中国とかアメリカと比べた場合にはほとんど差がないに等しいです。基本的には平等です。だから日本は社会主義がいちばん合うんじゃないかという話がずっと長く言われていますけどね。ひとりでためこまない、冨を独占しないという、それはさもしいことだという思いがあるわけで。それもさっきもいったように、買い占めなんて意味がない、どうせ腐るだろうという。腐る前にあげちゃえ、分け合っちゃえという。

よって、そんなに広くもないこの土地で、国土で、よそから逃げてきた人たちとも一緒に暮らすなかで、こういう贈与というひとつの本能にねざした分け合いの精神というものがなければ、もっとこの国は住み心地の悪い、生存競争の激しい、火事場泥棒だらけの、人の弱みにつけこんだ略奪とかがおきるようなそういう土地になっていたと思われるが、そういう土地になっていないのは、基本的に贈与ということをみな行ってきたからだという気がしますね。

日本には昨今まで幅をきかせていた市場原理主義、自由経済、これはなにかと不備のあるものだとつとに指摘されてきたわけだけど、それは合わないですね、この国にあんまり。アメリカ、イギリス式の経済システムを導入してやってきたのかもしれない。たしかに一部の人は豊かになったかもしれない。でもそのことによって貧富の差は拡大したりしたわけで、どうもそれはこの国には合わないということを多くの人が気づいているのではないか。といって社会主義の可能性というのはちょっともうだいぶ失われてきたという部分もある。相変わらず税金をたくさん徴収して、それを再分配していく、そういう大きい国家を頼りにするのがいいのかというのも、ここのところの政治不信によってそれもうまくいかない。税金の無駄遣いが多すぎる、役人が幅をきかせすぎるという問題がある。そうすると社会主義でもない、国家による税金の再分配というシステムでもない、もちろん自由経済、市場原理主義でもない、第4の道、これを模索するということは、あるいはそれが震災からの復興計画の一番の核にならなければならないのではないか。

復興というのはいろいろな定義があるけれども、第一に同じ過ちを繰り返さないということにつきると思います。原発の問題ひとつとってみても、最初は火力とか水力よりも、発電所の建設費が安い、それにCO2を出さないからクリーンだ、安全だという宣伝を行っていた。それでたくさん建設してきたわけだけれど、それでも短期的にみれば安い電力供給源になったかもしれない。だけれどもこういう事故があっても、事故がなくても、原発の運転をやめたあとの後始末にかかる歳月とコスト、これは莫大なものです。一基の原発の解体にかかる費用は1000億以上といわれているし、さらにかかる歳月が30年という計算があります。こういう原発が50基以上あるわけですからね。今回のような福島第一原発のような事故がおきた場合、周辺地域に及ぼされた被害、この補償の費用を考えると兆単位になる。その点を考えるだけでも、原発がいかに資本の原理にさえかなっていないか、ということを考えなければいけないと思います。(談)

 

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島田雅彦さん
Masahiko Shimada
作家。1961年東京生まれ。東京外国語大学ロシア語学科卒。在学中の1983年『優しいサヨクのための嬉遊曲』で小説家デビュー。主な作品に『彼岸先生』(泉鏡花文学賞)、『僕は模造人間』、『自由死刑』、『退廃姉妹』(伊藤整文学賞)などがある。オペラ台本にはオペラ『忠臣蔵』、『Jr.バタフライ』がある。文芸家協会理事。法政大学国際文化学部教授。東日本大震災の復興支援として、「復興書店」をたちあげる。

復興書店
「優先順位からすると本とか言葉はあとからついてくるもので、だからこそこの支援活動は急を要するわけではないけれども、息が長くなければいけないという性質のものです。また、心のダメージというのは、おいしいものを食べたから治るわけじゃないし、薬で治せるわけじゃないし、長くかかると思うんですよね。だからゆっくり効く言葉の薬を処方し続ける感じでやりたいと思います」
http://www.fukkoshoten.com

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